“未来を拓く研究所”として大林組を支える技術開発拠点 – 最新記事一覧

2013/05/27オフィストレンド

“未来を拓く研究所”として大林組を支える技術開発拠点

大林組 技術研究所 本館 テクノステーション

2012年5月に開業した「東京スカイツリー」をはじめ国内外でさまざまな建設工事を手がけ、「アークヒルズ 仙石山森タワー」や「梅田阪急ビル」など再開発の核となる超高層オフィスビルの施工にも豊富な実績を持つ株式会社大林組。2007年から清瀬市の技術研究所の大々的な再整備プロジェクトが進行中であり、その先陣を切って2010年9月に竣工した「本館テクノステーション」には、同社の誇る最新の技術開発の成果が数多く導入されている。本館テクノステーションの設計グループのリーダーとして同プロジェクトに携わった同社設計本部設計部課長・大西宏治氏(一級建築士)に話を伺った。



時代のニーズに合わせて技術研究開発拠点を刷新


エントランス脇に「東京スカイツリー」の鉄骨の原寸大模型を展示

エントランス脇に「東京スカイツリー」の鉄骨の原寸大模型を展示


1F大講堂では社外の人間を招いてのレセプション等も開催される

1F大講堂では社外の人間を招いてのレセプション等も開催される


我が国における建設技術開発のリーディングカンパニーとして昨年創業120周年を迎えた株式会社大林組。「大林組技術研究所」は同社の技術研究開発の拠点として、東京郊外の清瀬市に約6万9,000㎡の敷地を確保し、1965年に開設された。同研究所では、同社が国内外で手がけているさまざまな土木建設の工事に用いられている技術の研究開発が行われてきたが、一部の施設では老朽化が進み、また、近年の社会情勢の変化などに照らし合わせて現状にそぐわない部分も生じていた。そこで、施設の再整備が検討されるとともに、研究部門の組織体制の大幅な見直しが行われることになった。 「再整備以前は、『コンクリートに関する研究』『材料に関する研究』など専門の分野ごとに全部で13の研究室に分かれ、敷地内の各棟に分散していました。それぞれの施設は、その時点における当社の最新の技術を導入した建物でしたが、近年は研究室間の連携という点で問題が生じていました」(大西氏)


現在の技術研究開発は、単独の研究室だけで完結するものではない、と大西氏は言う。たとえば、新しいコンクリート素材を開発するというような場合、従来のようにコンクリートの専門家だけで研究していたのでは、問題点をブレークスルーするための新たな“ひらめき”が生まれにくい。そんなとき、「環境に配慮したコンクリート」「CO2を削減するコンクリート」などのように、単一分野の専門家とはまた違った角度からの発想や知見が必要になってくるのである。そのためには、研究員たちがそれぞれの研究室にこもったまま、他の研究室に所属する研究員の「顔と名前が一致しない」というような、それまでの状態を変革する必要があったのだという。


「当研究所には約200名の研究員をはじめとする所員が在籍していますが、その全員が一堂に会するセンターオフィスを造ろう、というのが、この『本館テクノステーション』という建物を建設したそもそもの目的でした」(大西氏)


同時に、技術研究所全体を再整備するためのプロジェクトが立ち上げられた。同研究所所長がリーダーを務め、各チームリーダーがメンバーとして参加するワーキンググループ(WG)が2007年に発足。同WGにより、本館テクノステーションを中核とする技術研究所のコンセプトメークが行われ、「最先端の環境配慮」「最先端の安全安心」「最先端の研究環境」という3つのコンセプトを策定した。こうして、同社の掲げる「技術の革新」「技術の実証」「技術のプレゼンテーション」を実践するフィールドである“未来を拓く研究所”を目指して、同研究所は新たなスタートを切った。



立てたエンピツが倒れないスーパーアクティブ制震


本館地下に設置されたスーパーアクティブ制震装置「ラピュタ2D」

本館地下に設置されたスーパーアクティブ制震装置「ラピュタ2D」


1F大講堂前には「ラピュタ2D」の性能を動きで見せる模型を展示

1F大講堂前には「ラピュタ2D」の性能を動きで見せる模型を展示


西武池袋線清瀬駅前からのバス道路となっている通称「けやき通り」に面した本館テクノステーションは、文字通り同技術研究所の“顔”というべき建物である。地上3階建てで高さはそれほどでもないが、幅は約100mもあり、機能美にあふれた前面ガラス張りのファサードは、郊外の住宅地の中にあって独特の存在感を放っている。


エントランスは節電のため天井照明を落としていたが、ガラス張りによる自然採光で館内はじゅうぶんな明るさを保っている。入り口から右手に巨大なオブジェのように展示されているのは、「東京スカイツリー」で使用されている鉄骨の原寸大模型。来館者に同社の技術力をアピールする、いかにも技術研究所らしいユニークな展示物である。1階にはこのほか、社外の取引先やマスコミ関係者などのための応接室や、社内外のレセプション等のイベントにも使用できる大講堂、所員の食事のためのカフェテリアなどが配置されている。


応接室のうち1室は、機密保持のため電波を遮断する装置が組み込まれているという。まったくの偶然ながら、取材当日は3月11日――あの東日本大震災から2年目のことであった。しかも、取材時間中にちょうど地震発生時刻である午後2時46分を迎え、所員一同が起立・黙祷を捧げる現場にも居合わせることになったのだが――竣工からわずか半年後の「その日」、本館テクノステーションも震度5弱の揺れに見舞われた。「この本館テクノステーションには、当時はもちろん、現在でも当社の最先端の防災機能が結集されています。建物自体が免震構造になっているのに加えて、地下には、揺れを感知して揺れと逆方向に作用する力が働くスーパーアクティブ制震装置『ラピュタ2D』が設置されています」(大西氏)


ラピュタという名称は、有名なスタジオジブリのアニメ映画と同じく、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』に登場する架空の島に由来する。すなわち、「大地の束縛から解き放たれた空間」を意味し、地震によって大地が揺れ動いても決して揺れない建物の実現を目指しているのだという。原理としては、建物のX軸とY軸に制震装置を設置し、たとえば地震によって地面が東へ10cm動いたら、同じタイミングで制震装置が西へ10cm押し戻す。すると、建物の中の人間にとっては、元の場所からまったく動いていないと感じられるのである。南北方向の揺れに対しても同様で、こと横揺れに関しては、このラピュタ2Dでほぼ完全に打ち消すことができるという。その性能は「震度5強の地震でも床に立てたエンピツが倒れない」というフレーズで象徴されている。ちなみに、名称の「2D」は2次元のことで、3次元の震動、つまり縦揺れへの対応が今後の研究課題であるという。


「東日本大震災のときは、アクティブ制御を始めた5秒後に変位が非常に大きな揺れがきたため安全装置(過負荷による装置損壊を防ぐブレーキ装置)が働き、免震ビルに移行しました。免震構造のおかげで被害はまったくありませんでした。その後の余震に対しては、『ラピュタ2D』が作動し、設計通り『エンピツが倒れない』制震性能を立証しています」(大西氏)



吹抜け空間による開放感と自然エネルギーの有効活用


3F吹き抜けを横断するブリッジからは2F執務エリアが一望できる

3F吹き抜けを横断するブリッジからは2F執務エリアが一望できる


屋根開口部と窓からの自然採光で執務エリアは照明要らずの明るさ

屋根開口部と窓からの自然採光で執務エリアは照明要らずの明るさ


本館テクノステーションは2階と3階がオフィスフロアとなっている。ここの最大の特徴は、2階執務エリアの頭上にひろがる広大な吹抜け空間だ。建物南面の約3分の2は、2階天井・3階床・3階天井をすべて取り払った吹抜けとし、執務エリアから直接屋根の裏側を見上げる構造となっている。


「執務エリアを約200名の研究員をはじめとする所員が机を並べるワンルームとする、というのが計画当初からの目的のひとつでした。ワンルームである以上、役員である所長以下、役職者にも個室はつくらず、全員が執務エリア内に自席を持ってもらうようにしました」(大西氏)


これだけ広いスペースになると、たとえワンルームであっても離れた席の人間とはコミュニケーションが疎遠になりがちである。そこで、天井のない吹抜け構造とすることで視認性を高め、離れた席同士でも一体感を持てるように工夫されている。コミュニケーションを活性化する仕掛けとしては、各デスクの間を仕切るパーティションの高さについても何度も検討を重ね、最終的には「集中するときには周囲が目に入らず、ひと息ついて少し顔を上げればまわりがよく見える」高さとして1,100mmに統一された。


「デスクの配置についてもさまざまな工夫が盛り込まれています。たとえば、デスク間の通路を進んでいくと、進路上で必ず、少人数用のミーティングスペースか、役職者の自席に突きあたるようにレイアウトされています」(大西氏)


デスク足元の白いパネルは、冷水・温水を利用したパーソナル空調

デスク足元の白いパネルは、冷水・温水を利用したパーソナル空調


執務エリア外周部を囲む床の自然換気口。壁のスイッチで作動する

執務エリア外周部を囲む床の自然換気口。壁のスイッチで作動する


このほか、給湯スペースやプリンタ複合機などの共用スポットはマグネットスペースとして、所員たちの動線を計算した上で配置されている。こうした環境の激変に、当初はとまどう所員も多かったというが、1ヶ月もすると新しい環境に慣れ、使用開始から2年以上経過した現在ではすっかりなじんでいるという。


もっとも、周囲に煩わされず仕事に集中したい場面や、落ち着いて話ができる場所が必要になることもある。そこで、2階・3階の窓際を中心に、さまざまな場面で利用できるスポットも用意されている。2階にはリラックスできるソファセットや、ロールスクリーンで目隠しできる役職者専用のミーティングルームが設置され、3階には窓に面して外の景色を見ながら仕事ができる窓際カウンターや、左右に仕切りのある半密閉型の作業ブース、さらにドアを閉めてこもることができる密閉型の作業ブースが数ヶ所設けられている。


「本館テクノステーションのもうひとつの特徴は、自然エネルギーを利用した省エネ設計です。たとえば、太陽光を最大限採り入れることで、昼間は照明要らずの明るさを確保しています。屋根にトップライト(採光用の開口部)を設け、窓には庇とガラス製のフィン(垂直の仕切り)を設けて、明るさを確保しつつまぶしすぎない採光を実現しました」(大西氏)


また、本館テクノステーションでは風を取り入れて空気を対流させる自然換気システムを導入。使用には外気の状態に一定の条件が必要だが、春や秋には自然換気だけでじゅうぶんな日も多いという。さらに、冷暖房の効率を高めるため、各自のデスクには、夏は冷水、冬は温水を流して温度を調節するパーソナル空調も設置されている。



国内初エミッションZEBを達成した大林組の技術力


3Fブリッジ。中央に振動を吸収するための装置が設置されている

3Fブリッジ。中央に振動を吸収するための装置が設置されている


3Fの窓際カウンター席。景色を見ながら仕事をすることができる

3Fの窓際カウンター席。景色を見ながら仕事をすることができる


前述した「ラピュタ2D」をはじめ、自然エネルギーを利用した照明・換気システムなど、本館テクノステーションには数々の自社開発技術が集積されている。


「『創業120周年に因んで、全部で120の自社開発技術を導入しよう』という意見もあったほどです(笑)。残念ながらそこまでは届きませんでしたが、技術研究所の他の建物も含めると100以上の技術が採用されています」(大西氏)


まさしく、技術の大林組の面目躍如といえる。たとえば、本館テクノステーションの建築に採用された「スリムクリート」は、常温で硬化する特質を備えた高強度モルタル材料で、従来の超高強度繊維補強コンクリート(UFC)と同等以上の強度特性を発揮できるうえ、現場での施工においても制約が少ないという。


また、超高強度CFT柱(筒状の鋼管柱の内部にコンクリートを充填し、耐震性や耐火性を高める柱部材)は従来の約2倍の強度を持つ超高強度鋼材と、超高強度コンクリートを使用することで、大地震に対する安全性を確保しつつ、従来よりも細く少ない柱で大空間を構築できるという。事実、本館テクノステーションはこれほどの耐震性を備えた大空間の建物であるにも関わらず、館内を見ていて“柱”の存在を意識することはほとんどなかった。


2F執務エリアの窓際にはソファやバルコニー席も用意されている

2F執務エリアの窓際にはソファやバルコニー席も用意されている


2F南面のバルコニー。直射日光の侵入を防ぐ設計上の意味もある

2F南面のバルコニー。直射日光の侵入を防ぐ設計上の意味もある


「もちろん、すべてが新開発の技術というわけではありませんが、既存の技術を改良したり、組み合わせや応用によって従来よりも高いパフォーマンスを実現しています。また、細かい部分にもさまざまな技術が活かされています」(大西氏)


便利な技術を導入するだけでなく、その技術を利用する人の意識を改善する取り組みも工夫されている。前述の自然換気システムをコンピュータによる完全自動制御とせず、敢えて「人が手でスイッチを入れることで作動する」方式としているのはその一例だ。


これらの技術の結集により、本館テクノステーションはCASBEE(建築環境総合性能評価システム)で最高ランクとなる「S」評価を獲得。さらに「第24回日経ニューオフィス賞」を受賞するなど、社会的にも高い評価を得ている。2011年にはCO2排出削減量が一般的な事務所ビルとの比較で目標値(55%)を上回る57.2%削減を達成。 さらに、カーボンクレジットの購入により、一年間のCO2の排出量をゼロとし、国内初の本格的「エミッションZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」を達成している。


「今後は、カーボンクレジットを購入しなくてもCO2排出量がゼロとなる、完全な『ソースZEB』の達成を目標としています」(大西氏)



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