“新しい働き方”を創出する日本マイクロソフト品川本社 – 最新記事一覧

2012/09/03オフィストレンド

“新しい働き方”を創出する日本マイクロソフト品川本社

米Microsoftの日本法人であるマイクロソフト株式会社(旧社名)は2011年2月、「日本マイクロソフト株式会社」に商号変更するとともに、本社機能を「品川グランドセントラルタワー」に移転した。新宿旧本社オフィスをはじめ、代田橋オフィス、赤坂オフィス、初台オフィス、霞が関オフィスの5つの拠点を統合し、約2,500名の大移動であった。


このビッグプロジェクトを少数精鋭で采配し、新本社での新たなワークスタイルの構築に尽力した同社管理本部リアルエステートアンドファシリティーズ/リアルエステートポートフォリオマネージャー、長坂将光氏に話を伺った。



わずか13ヶ月間で2,500名の大移動を完了


「本社移転の構想そのものは数年前からありましたが、移転先が決定してから移転作業完了までにかかった期間は13ヶ月です」長坂氏は始めにそう言った。オフィス移転の期間は、おおむね人数や使用面積の規模に比例すると考えられる。100名未満の移転であれば3ヶ月から6ヶ月程度、200~300名規模になると1年前後はかかるのが普通だろう。日本マイクロソフト株式会社といえば世界的規模の企業であり、しかも今回は新宿本社を移転するだけでなく、都内にある代田橋・赤坂・初台・霞が関の5つの拠点を統合するという一大プロジェクトである。これに伴い移動する人数は約2,500名にのぼる。単純計算すれば、1年前後かかるプロジェクトの10倍の人数が動くわけだ。だが、同社は2010年1月に「品川グランドセントラルタワー」への移転を決定し、翌年2月にはすでに新本社での営業を開始していたというのだから驚かされる。


何故、そこまで迅速な対応が可能だったのか。長坂氏は「特別なことではなく、ごく当たり前のこと。これまでにやってきたことの積み重ねです」と話す。「やるべきことをすべて洗い出し、1つひとつに優先順位をつけました。移転までに時間的余裕もありませんから、すべてに手を出していたら収拾がつかなくなります。そこで、移転前にやっておくべきこと、移転と同時のタイミングでなければできないこと、移転後でもできること……というふうに分類し、順番に片づけていきました」(長坂氏)。


言われてみれば、たしかに当たり前のことかもしれないが、実行するのは決してたやすいことではない。それを可能にしたものは、同社の培ってきた企業風土であった。「WPA(Workplace Advantage)というマイクロソフト独自のオフィス環境プログラム(リアルエステート&ファシリティのプログラム)があります。今回の移転プロジェクトが動き出す以前から、WPAの一環として社員の働き方や満足度調査などが行われており、あらかじめ問題点や改善ポイントがはっきりしていたことが大きいと思います」(長坂氏)。


品川という立地の選定理由については、世界企業マイクロソフトらしく、新幹線や航空便とのアクセスに優れている点を重視したという。また、新築ビルではなく、既存ビルを選んだ理由については「タイミング」による要因が大きかったようだ。 「ちょうど前のテナントさんが退去され、19階から31階まで合計約3万6,800平方メートルの面積をまとめて借りられることや、ビルの外壁に社名サインを掲げたり、2階に専用エントランスを設置するなどの条件も認めていただけたので、こちらに決定しました」(長坂氏)。



16万7,000人が訪れた品川本社の吸引力


入居時に30階と31階を結ぶ内階段が設けられた

入居時に30階と31階を結ぶ内階段が設けられた


品川本社の30・31階の2フロアは「来客を迎えるための専用スペース」と位置づけられている。ここは単なる応接スペースではなく、同社の販売するさまざまな商品のショールームでもあり、見学者に同社のソリューションを体感していただく場でもあるという。「31階は企業様向けに直線的でシャープなデザイン、30階はコンシューマ様向けに曲線的でやわらかいデザインと、内装の仕上げを変えました」(長坂氏)。


30階と31階は、内階段によってダイレクトに結ばれている。この階段は、同社が入居に際して加えた大がかりな改装のひとつだ。30階には来客用のカフェとしての機能もあるが、ここで提供される飲み物や軽食は、19階の社員用カフェテリアで作られているという。「30・31階の2フロアに関しては、予算と時間の許す限り徹底的に改装しました。新宿旧本社をはじめ、他のオフィスにもこうしたお客様をお迎えするスペースはありませんでしたから、移転前とは比べものにならないほどのお客様にご来訪いただけるようになりました。この2フロアと、カフェテリアのある19階を除くと、執務スペースである20階から29階までは基本的に各フロアとも同じ内装で仕上げています」(長坂氏)。


31階ロビー中央のショールーム。正六角形のガラス張りのスペースで同社の働き方を体験できる

31階ロビー中央のショールーム。正六角形のガラス張りのスペースで同社の働き方を体験できる


既存ビルへの移転の場合、新築ビルとは違って内装の自由度に関しては物理的・時間的に厳しい制約がある。すでに完成している建物の躯体という枠組みがあり、その枠の範囲内で内装工事を行うしかないからだ。また、工事に時間をかけ過ぎれば、以前のオフィスと二重に賃料を支払う期間が長引くことになる。こだわるべきところに重点的に予算と時間をかけ、それ以外の部分は必要最低限に抑える――同社のオフィスづくりには、そんな合理精神の徹底が見て取れる。


本取材は移転から1年半が経過した2012年8月3日に実施されたものだが、この間に同社を訪れた来客の数は、じつに16万7,000人を超えているという。「ご存じの通り、品川本社に移転してから1ヶ月後に東日本大震災が発生しました。その後しばらくはオフィス見学どころの騒ぎではありませんでしたから、実質1年間でこれだけの来客数といってもいいでしょう。また、以前に比べて『経営トップ』や『決裁権者』のお客様においでいただけるようになったことも大きな変化だと思います」(長坂氏)。


ちなみに、3.11当日にも約380人の来客がオフィス見学に訪れていたという。同社はただちに来客の安否確認とホテル・タクシーなどの手配、さらに会議室を宿泊用に開放して食料を用意するなど、迅速な対応で来客の安全確保に努めた。「震災翌日の午後、最後のお客様に無事にお帰りいただいたのを確認するまで、一瞬も気が抜けませんでした」と、長坂氏は“その日”を振り返る。同社はその後、震災対応のためにさまざまな対策を実行していくことになるが、そのことが期せずして社内の“新しい働き方”に対する意識改革に大きく寄与することになったのである。



マイクロソフトらしい“新しい働き方”とは


各フロアに設けられた「部室」と呼ばれるスペース

各フロアに設けられた「部室」と呼ばれるスペース


部室は利用するチームが自由にレイアウトしている

部室は利用するチームが自由にレイアウトしている



品川本社の構築にあたり、同社が掲げた達成目標は次の4つであったという。
① Face to FaceとICTによる事業部間連携の強化、推進
② 会社一丸となっての事業運営→“One Microsoft”
③ 中長期的視点での日本市場への戦略とコミット
④ 環境へのとりくみ促進


これらのうち、たとえば最初に挙げられている①とは具体的にどういうことだろうか。一見、相反するようにも思える2つの要素だが、これを両立させる手段として同社が採用したのが「フリーアドレス制」であった。「全社員の約60%の固定席を廃止し、フリーアドレスとしました。一般にフリーアドレスの目的は『オフィス使用面積の削減』であることが多いようですが、当社の場合、あくまで『コミュニケーションの強化・促進』が目的です」(長坂氏)。


事実、移転直後におけるオフィス使用面積は、移転前に比べて約30%の増床となっていたという。ただし、その後同社調布オフィスなどから約300名の人員を増員したため、現在では移転前のオフィス使用面積とほぼ同等に戻っているとのことである。それにしても、固定席を廃止することでコミュニケーションの強化・促進が可能になるというのはどういう理屈なのだろうか。長坂氏は「固定席をなくす代わりに、どこででも仕事ができる環境とすることで、さまざまな部署や立場の人間とFace to Faceでのコミュニケーションが可能となります。そして、誰がどこで仕事をしているかわからないフリーアドレス環境でマネジメント層が部下を管理するためには、ICTの活用が必須となるのです」と解説する。


たとえば同社の自社製品である「Microsoft Lync」を利用すると、全社員の「今、どこで仕事をしているか」がわかるだけでなく、「今、どんな状況にあるか」まで一目瞭然だという。相手の状況次第で、こちらから足を運んで直接声をかけてもよし、電話するもよし。メールを送って手すきのときに読んでもらうもよし。あるいはパソコンの画面を共有してその場に居ながらミーティングを行うことも可能となる。


うまく使いこなせば便利なツールだが、導入当初は、特にマネジメント層からは疑問視する声も少なくなかったという。「『部下を見ないでどうやって管理する?』というわけです。そうした考えが180度変わるきっかけとなったのが、3.11震災後、1週間続いた『自宅勤務命令』でした。このときは、約85%の社員が各自の家で仕事をすることになり、彼らの上司たちは、部下の仕事を管理するには好むと好まざるとに関わらずMicrosoft Lyncを利用するしかない、という状況に追い込まれたのです」(長坂氏)。マネジメント層全員が必要に迫られてMicrosoft Lyncでの部下管理に取り組んだ結果、その利便性が全員の共通認識となり、同社の新しい働き方となった。


image016

フリーアドレスの採用で在席率は40%から30%に。客先でのコミュニケーション機会が増えた



品川本社の移転効果と今後のオフィスづくり


「どこで仕事をしてもいい」ということは「どこででも仕事はできる」環境にあるということだ。無線LANによるネットワーク接続環境や電源などのインフラの確保はもちろんだが、集中して作業したいとき、背後や両隣などから他人の視線を感じると作業効率が落ちる場合も考えられる。そこで、集中して仕事ができるスペースを確保するため、同社のオフィスには “意図的に作られた死角”がいくつも存在するようになった。


このようにさまざまな試みが取り入れられた品川本社だが、その効果はどうだったのだろうか。 「オフィス移転の6ヶ月後に、POE(Post Occupancy Evaluation)と呼ばれる満足度調査を実施しました。その結果、移転前と比べて多くの項目で満足度が大きく上昇していることが明らかになりました」(長坂氏)。たとえば、オフィス全体の満足度は移転前45%→移転後71%に上昇。個人の快適性は移転前37%→移転後64%に。オフィスの環境は移転前35%→移転後64%に上昇、といった具合である。


また、コスト削減のように直接的に利益に結びついた移転効果も測定されているという。たとえば、従来の固定電話を廃止し、IP電話を導入したこと。これによって、回線の設置費用と設定費用、通話料などを大幅に抑えただけでなく、社員の異動に伴う再設定の費用がすべて不要になった。「当社では年間平均1,200名が異動しています。再設定料金が1件2~3万円として、年間数千万円のコストがかかっていたわけです」(長坂氏)。


さらに、紙の使用量も大幅に減っている。面白いことに、同社の場合、トップや上司から「ペーパーレス化しろ、印刷するな」などとは一切言っていないそうだ。ただ、固定席を廃止したことで書類の保管スペースがなくなり、また画面共有やモニター接続などでいちいち印刷する必要がなくなったため、自然にペーパーレス化が進んでいったのだという。「ほかにも、技術の発達によって今後どんどん変化していくものは多いでしょう。ただ、その一方で10年経っても変わらない働き方というものもあると思います。そんなマイクロソフトらしい働き方が生まれるオフィスを作っていきたいですね」(長坂氏)。


19階カフェテリア。入り口から向かって左手は“朝”をイメージしたピクニックエリア

19階カフェテリア。入り口から向かって左手は「朝」をイメージしたピクニックエリア


カフェテリア右手奥、ファミレスのベンチを模したダイナーブースは「夜」をイメージ

カフェテリア右手奥、ファミレスのベンチを模したダイナーブースは「夜」をイメージ



関連する記事

 

オフィス移転オススメ記事

カテゴリー

アーカイブ

ビルディンググループは、オフィス環境構築のリーディングカンパニーとしてあらゆるオフィスニーズにお応えいたします。

ビルディンググループは、オフィス環境構築のリーディングカンパニーとして
あらゆるオフィスニーズにお応えいたします。

0120-222-060

電話受付時間 9:00~18:00(土日・祝日除く)

オフィス環境構築のリーディングカンパニーとして企業改革を多角的にサポートし、
あらゆるオフィスニーズにお応えられるサービス提供を目指します。

SITE MENU