都内事業拠点の再構築と新東陽町ビルのCRE戦略 – 最新記事一覧

2012/02/12オフィストレンド

都内事業拠点の再構築と新東陽町ビルのCRE戦略

2004年1月1日、明治生命保険相互会社と安田生命保険相互会社の経営統合により誕生した「明治安田生命保険相互会社」。2つの企業が合併したことで、本社や事務センターなどの施設が重複することになり、同社はそれぞれの機能を再構築する必要に迫られた。丸の内の本社ビル再開発に続いて、事務センターの統合が検討され、最終的には自社ビルを新築することで決定する。2011年11月末に完成した「明治安田生命新東陽町ビル」には、同社のCRE戦略施策を推進する多くの取り組みが盛り込まれている。同社不動産部の主席スタッフ・秋元俊一氏(一級建築士・認定ファシリティマネジャー・CASBEE建築評価員)に話を伺った。



分散した拠点の集約とともに複数の機能の集積を図る


「明治安田生命新東陽町ビル」の1Fエントランス正面

「明治安田生命新東陽町ビル」の1Fエントランス正面


正面階段の上はガラス張りの吹き抜け空間になっている

正面階段の上はガラス張りの吹き抜け空間になっている


東京メトロ東西線「東陽町」駅からほど近く、永代通りと四ッ目通りからそれぞれ通り1本隔てて、約9,100坪におよぶ広大な敷地に地上12階、地下1階建てのビルが竣工したのは、あの3.11大震災から7ヶ月余りが過ぎた2011年11月30日のことである。その名を「明治安田生命新東陽町ビル」という。「新」というのは、もともと同ビルの手前の敷地に事務センターが建っていたためだ。計画の初期段階までさかのぼれば、およそ5年越しの竣工であったという。 「当社では2000年頃から本社の執務環境の平準化というテーマに取り組んでまいりました。経営統合を果たした2004年の9月に丸の内で『明治生命館』と『明治安田生命ビル』の一体型再開発が完成し、企画部門と一般管理部門はそちらに入居しましたが、事務部門は都内各所に分散した既存の施設を利用している状況でした」(秋元氏)。


もちろん、当初から自社ビルの新築ということを決めていたわけではなかった。既存ビルの購入や賃借など、いくつかの選択肢を考慮したうえで集約移転する先を探していたのだという。とはいえ、5,000人規模の人員を収容できる移転先は、そう簡単には見つからなかったようだ。やがて、東陽町の旧事務センターに隣接した敷地でまとまった面積を確保することができるとわかったため、ここに自社ビルを新築するという方針が決定したのである。


「新たに建設する自社ビルのコンセプトとしては、まず、各部門を効率的に集約ということが挙げられます。また、当初想定していた以上の面積を確保できたことで、これを有効活用するために多機能を集積すること。具体的には、研修所や配送センター、宿泊施設などの機能を当ビル内に集積しています。次に、BCP対応とフレキシビリティの確保。これは可能な限り安全性を高めるということと、組織改編や状況の変化などに柔軟に対応できることが必要だからです。そして、CO2排出量削減などの環境共生、地域共生などが挙げられます」(秋元氏)。新東陽町ビルでは、これらのコンセプトを具現化する多くの試みが採り入れられている。



先進技術の導入によりCO2排出量20%削減を目指す


食堂は約1,100席。他に2Fには弁当持参者用の席が約250席ある

食堂は約1,100席。他に2Fには弁当持参者用の席が約250席ある


食堂の窓の外はオープンテラス風の中庭になっている

食堂の窓の外はオープンテラス風の中庭になっている


新東陽町ビルでは敷地面積約9,100坪に対し、建築面積は約4,500坪と、建ぺい率にして50%を下回っている。同社ではこの広い空地を活用して、環境共生、あるいは地域共生の一環として敷地内に多くの植樹を行っているのをはじめ、建物のバルコニーや屋上など至るところに緑化を施し、可能な限り環境緑化を推進しているという。


「当ビルに限らず、当社では以前から所有ビルの屋上緑化など、省CO2と省エネというテーマに全社的に取り組んでいます。新東陽町ビルは、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)で最高のCASBEE-Sランクを取得。さらに、省CO2に寄与する先進技術の導入により、CO2排出量の20%削減を目指した環境配慮型ビルです」(秋元氏)。


導入された先進技術とは、「可能な限りの緑化」「太陽光発電」「自然換気」「自然採光」「雨水利用」など近年多くのビルで採り入れられているものに加え、「放射併用空調」「採光反射板」といった新技術も積極的に導入している。新東陽町ビルでの省CO2技術に関する取組みは、国土交通省の『平成21年度住宅・建築物省CO2推進モデル事業』に採択されており、同ビルで採用した先進省CO2技術の検証結果を広く情報公開することで、省CO2技術の発展に寄与したいというのが同社の考えだ。


新東陽町ビルの新築工事のさなかに、3.11大震災が発生している。建物は免震構造を採用しているため、建築途上のビル自体にはこれといった被害は出なかったものの、エレベーターの納期が遅延し、断熱材などの建築資材が不足するなど、工事のスケジュールに影響が出たことで秋元氏を大いに悩ませたという。というのは、新東陽町ビルの新築工事は、単に新しいビルを1棟建てるための工事ではなかったからである。


「新東陽町ビルの新築と並行して、本社の執務環境の平準化が進行中でした。従来は個々のビルにより格差のあったセキュリティシステムやレイアウト基準などの統一化を図るため、既存のビルのオフィス改修が並行して行われていたのです。全体の移転スケジュールからも当ビルの工事だけが遅れるわけにはいかなかったのです」(秋元氏)。
幸い、最終的には何とか予定通りの工期に間に合わせることができたという。2011年11月末に新東陽町ビルが竣工すると、その翌日から順次、都内にある各拠点の新東陽町ビルへの移転が行われた。そして、約半年後の2012年5月のGW明け、すべての拠点の移転が完了したという。


「本社施設は一時4拠点9棟に分かれていましたが、現在はこの新東陽町ビルと丸の内の2棟、そして高田馬場の事務センターの3拠点4棟に集約されています。この3拠点では、使用している什器、デスク間の距離、パーティションの高さ、照明の明るさなど、すべてのファシリティを統一しています。これにより、部門間の異動があっても、職員は以前と同じ執務環境で仕事ができるようになりました」(秋元氏)。すなわち、新東陽町ビルのコンセプトのひとつに挙げられているフレキシビリティの担保にもつながっている。



スキップフロアで構成されたメガスパイラルオフィス


執務エリアは階段ではなく、スロープでらせん状につながっている

執務エリアは階段ではなく、スロープでらせん状につながっている


スロープの交差するポイントに設置されたマグネットスペース

スロープの交差するポイントに設置されたマグネットスペース


新東陽町ビルの構造上の最大の特徴は、4Fから9Fまで6フロア分に相当する執務エリアが「メガスパイラルオフィス」になっていることだろう。メガスパイラルオフィスとは、1フロアを4つの面に分割し、1面ずつ高さの違う「スキップフロア」として、らせん階段のように連続して積み上げて構成する手法のことである。各スキップフロアは、それぞれ2辺で隣の面と接続しているほか、吹き抜け側を向いた辺の中央からビルの中心部分に向かってガラス張りのスロープが伸び、中央で十字に交差して接続する。このスロープは、高さの違うスキップフロア同士を緩やかな傾斜で結んだ通路となっており、この通路は段差のないバリアフリー対応となっていることにも注目したい。


「イメージとしては、フロアを階層で区切らず、執務エリア全体で巨大なワンルームと感じられるような構成になっていると思います。執務エリア内であればどのフロアへも階段を使わずに移動することができますし、たとえば車椅子の方でもスロープを通れば自由に移動できます」(秋元氏)。


スキップフロアでは天井高やデスク間距離などが統一化されている

スキップフロアでは天井高やデスク間距離などが統一化されている


なだらかな傾斜のスロープを渡って、正面のスキップフロアへ移動

なだらかな傾斜のスロープを渡って、正面のスキップフロアへ移動


しかも、ビルの吹き抜け側の壁はガラスカーテンウォールとなっており、他の面や他のフロアのようすを一望することができる。この視覚的連続性により、職員は執務エリア内のどの席にいても「同じ室内で仕事をしている」という一体感が生まれる。さらに、縦横に走るスロープは職員同士の偶然の出会いを誘発し、そこにコミュニケーションやアイデアが生まれる仕掛けにもなっている。


「スロープの交差点にはベンチを設置し、休憩や雑談のほか、気分転換しながら打ち合わせができる空間となっています」(秋元氏)。


ビルの中心部に吹き抜けの開口部を設け、ガラスカーテンウォールで覆う手法は、自然エネルギーを利用した採光や空調などにも大いに役立っている。新東陽町ビルに導入された新技術である「採光反射板」は、わずかでも太陽が出ていればその光を効率よく反射させ、ビル内に採り込むようになっている。また、「放射併用空調」は放射パネルと送風を併用することで空気の対流を作りだし、オフィス内の狭い部分を効率よく冷暖房するタスク&アンビエント空調方式の一種である。さらに、スキップフロアをスロープでつなぐことにより、ビル内は徒歩で移動する習慣を持つ職員が増えたという。エレベーターの使用頻度が低減されたことで、節電・省エネ効果に結びついているだけでなく、職員の運動不足の解消にも一役買っているようだ。


「中心部に吹き抜けの開口部を設けるに当たって一番苦労したのは、光や風、音、匂い、視覚情報などをいかにコントロールするか、という問題です。たとえば、採光が良くても眩しすぎては困りますし、周囲の音が聞こえるのはいいがうるさいのは困ります。これらの問題をコントロールするため、そこで働く職員たちの調査・分析と検証には可能な限り時間をかけました」(秋元氏)。


こうして完成した新東陽町ビルは「第25回日経ニューオフィス賞」クリエイティブ・オフィス賞や「第7回ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)」優秀FM賞を受賞するなど、識者から高い評価を受けている。



屋上開口部。周縁部は緑化され、屋根には採光用の反射板が見える

屋上開口部。周縁部は緑化され、屋根には採光用の反射板が見える


3F講堂。大ホールの一部を可動式パーティションで分割している

3F講堂。大ホールの一部を可動式パーティションで分割している


新東陽町ビルのコンセプトのひとつ「集積」について具体的に見てみよう。10Fから最上階である12Fまでの3フロアは、400名の宿泊が可能な施設となっている。これは、全国から研修受講などの目的で集まる明治安田生命の従業員を受け入れる施設であり、受講生の利便性を確保すると同時に、事務センター業務を身近に感じられる効果も生まれた。この宿泊施設および3F研修室の研修関係者用施設は、セキュリティ上の理由から執務エリアとは分断されており、エレベーターも別個に設置され、互いに行き来できないようになっているが、吹き抜け越しに視覚的にはひとつの建物としての繋がりのある空間である。


「研修には多いときで700~800人が参加していますから、執務エリアと合わせて最大約6,000人近い人間が館内にいることがあります。1~2Fの一部は食堂になっていて、約1,000席分を用意していますが、それでも11時30分から13時30分までの昼食ピーク時にはフル稼働になっています」。


3Fの研修所は、研修テーマや参加人数によって多彩な大きさ・広さ・設備環境の研修室を選択することができるという。本誌取材当日も、ほぼすべての研修室が使用中で、その活用頻度はきわめて高いようだ。また、3Fには最大500名規模の参加者を収容できる大ホールも設置されている。大ホールは後側の2分の1を可動式パーティションで区切ることができ、2つの中ホールとして使用することも可能だ。


3Fには、明治安田生命のこれまでの歴史を豊富な資料で展示する部屋も設置されている

3Fには、明治安田生命のこれまでの歴史を豊富な資料で展示する部屋も設置されている


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「また、この大ホールのもうひとつの役割は、地域の災害時支援として『病院搬送前の被災者の待機場所』として開放することです。もともと、この新東陽町ビルは『業務を止めてはいけない場所』であると認識していたため、これらについては3.11大震災以前から当社のBCP計画と並行して検討してきました」(秋元氏)。


ちなみに、新東陽町ビルは従前よりも厳重なセキュリティを設けているが、移転してきた当初、職員の反応としては「むしろ(セキュリティが)緩くなったのでは?」と感じている声もあったという。「認証ゲートから次のゲートまでの距離があることで、セキュリティが意識されにくくなったためと考えています」(秋元氏)。


期せずして、セキュリティ強化と職員のストレス軽減の両立に貢献しているようだ。供用開始から1年余り、新東陽町ビルの真価が発揮されるのは、むしろこれからなのかもしれない。



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