2012/09/18オフィストレンド
緑、緑、緑――。呉服橋交差点から見るビルの外観は、東京都心とは思えないほど圧倒的な緑の壁に覆われている。2010年3月、株式会社パソナグループが東京駅周辺に点在するグループ企業のオフィスを統合移転して開設した「パソナグループ本部ビル」である。同社広報室長・根本恵介氏は次のように語る。
「以前の本社では『パソナO2』という地下農場をつくっていました。その経験を活かして、今回はビル全体に緑を採り入れたオフィスづくりを試みました」。
その言葉の通り、パソナグループ本部ビルは外壁だけに留まらず、建物内外の至るところに緑が繁茂している。それも、トマトやキュウリ、レタスやオクラなど、食べられる野菜ばかりだという。
「本部ビルが新たに導入したコンセプトは3つ。環境負荷を低減すること。農業情報の発信をすること。社員が働きやすく健康に良いオフィスをつくることです。基本的な考え方は以前からありましたが、ここではそれを目に見える形にしているのが特徴だと思います」(根本氏)。
1階の「水上ステージ」。水盤には鯉も泳いでいる
本部ビルの建物は築50年以上経過しており、建て替えという選択肢も考えられた。だが、ビル1棟建て替えるとなると大量の廃材が出る。環境負荷を少しでも低減するため、同社は「残せる物は残し、使える物は使う」という方針で本部ビルのリフォームに取り組んだという。
その結果、ビルの躯体はそのまま残し、内装を徹底的につくりこむ形になった。また、1階の床とテーブルの一部、外堀通りに面したロビーの「水上ステージ」と呼ばれる水盤に囲まれた一角は、工事現場の足場などに使われる間伐材でつくられている。靴底に伝わる間伐材の感触は、周囲の緑と相まって、さながら尾瀬などの湿原に敷かれた木道の上を歩いているような気分を味わえる。取材当日、東京は最高気温33度の猛暑であったが、ビル内にはさわやかな涼気が漂っているのが感じられた。
「外壁の緑のカーテンの断熱効果に加え、水盤は見た目も涼しげですし、気化熱で温度を下げる効果もあります」(根本氏)。
1階の階段下の畑。ミストが自動的に噴出し乾燥を防ぐ
本部ビルの1階と2階は一般開放され、平日には誰でも自由に出入りできるほか、観光バスのコースにもなっていて、取材中も何組かの見学者の団体が訪れていた。同社の「アーバンファーム」は、かつての「パソナO2」の研究成果を活かし、大幅にパワーアップしている。水耕栽培のほか、土を使った「畑」もある。LEDやHEFL(ハイブリッド電極蛍光管)などの人工光で育てた野菜は、農薬も使わず、季節や天候に左右されずに安定供給できるのがメリットだ。
「ここで育てている野菜は9階の社員食堂で調理して食べていますが、観賞用という目的もあるので、あまり一度に採りすぎないようにしています」(根本氏)。
3階から上の執務エリアでも、オフィスの壁や窓際に多くの緑が採り入れられている。これは、よく見られる壁面緑化のように、平面の壁にツタなどを絡ませているのではなく、立体的な空間をつくって植栽を育てているのである。
「リフォーム工事のとき、窓の位置を少し内側に寄せて、各階に幅2~3mほどのバルコニーをつくりました。ここで植栽を育てています」(根本氏)。
もちろん、バルコニーだけではなく、各階のエレベーターホールや廊下の壁、ミーティングルームの床や天井など、本部ビル内ではあらゆる場所に緑が配されている。中には1階のエレベーターホールのように、天井からケンガイ鉢のプランターを逆さ吊りにしているところもあるから驚かされる。さらには、屋上も全面緑化が施され、周囲の超高層ビルの中で異彩を放っている。屋上にはベンチも用意され、昼休みに社員が弁当を食べたり、夏場は勤務時間終了後にビアガーデンとして使われることもあるという。
本部ビルの屋上。周囲を囲むのは都心の超高層ビル群
これらの農作物は、アーバンファームチームという専門の農業スタッフが世話をするほか、同社の障害者雇用促進の一環として障害を持つスタッフも農作業に従事している。また、一般社員も気がついたら水やりなどを行っており、農作物の世話が他部門の人間とのコミュニケーションのきっかけになることもある。
ちなみに、障害者雇用促進の試みとしては「アート村工房・大手町」も開設され、障害者が特別支援学校や職業訓練校などで学んだ縫製の技術を活かしてアート商品の開発や制作に取り組んでいるという。これは同社が展開する「アート村」としては4つ目の工房で、本部ビル1階では作品も販売している。
「ほかに、『働きやすい環境』という意味では、本部ビル内に保育所も開設しています。これはパソナグループの社員や大手町・丸の内界隈にお勤めの登録スタッフの方がご利用いただけます」(根本氏)。働く女性や一部の男性にとって、自分たちの職場の近くに子どもを預ける場所を確保できることには計り知れないメリットがある。これほど「働きやすい環境」もあるまい。同社の試みはすべて、”働く環境を心地よく”することにつながっているようだ。
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