日本型雇用社会 ハイブリッド型システム構築への転換 ジョブ型とメンバーシップ型のメリット・デメリット – 最新記事一覧

2022/09/08コラム

日本型雇用社会
ハイブリッド型システム構築への転換

ジョブ型とメンバーシップ型のメリット・デメリット

伊藤忠商事株式会社や味の素株式会社など大学生の就職人気ランキングトップ10に登場する企業をはじめ、株式会社日立製作所や富士通株式会社など名だたる大手企業を中心にジョブ型雇用を導入する動きが加速している。従来の終身雇用を前提とした新卒一括採用のようなメンバーシップ型雇用の見直しを図る企業が増えつつある。両者のメリット・デメリットを中心に、今後の新たな雇用システムの在り方を考えてみる。


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経団連が新卒一括採用の見直しを加速


一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は、2022年入社以降の学生に対する就活ルールを廃止し、新卒一括採用の見直しを加速させるよう企業に促している。
新卒一括採用とは、官公庁や企業が高校、専門学校、大学の卒業予定の新卒者を対象に、毎年決まった期間に採用選考を行い、卒業後に一括して正社員に採用する日本独自の雇用システムである。近年はこうした新卒一括採用の割合を減らし、通年採用や中途採用を拡大していく方向にある。そうした中、経団連の十倉雅和会長は2021年11月の定例記者会見で、「新卒一括採用や長期・終身雇用などを特徴とするメンバーシップ型雇用は、定めた方向に社内一丸となって目標達成を追求する時には非常に有効である。経済が一層グローバル化し、社会が変容している時代には、多様性や円滑な労働移動を可能にする雇用システムへの見直しが必要である。そうとは言え、ジョブ型への完全転換が必要と早計に結論づけるようなことは、それこそ多様性を認めない考え方である。メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用を適切に組み合わせる自社型雇用システムを検討していくことがよいと思う。」と語っている。



神戸市は2022年4月入庁より大卒の通年採用開始


2021年秋の採用試験から神戸市は、大卒事務系の通年採用を始めている。 通年採用とは、官公庁や企業が必要な人材を必要な時期に、自由に採用活動を行うことである。同市では、海外留学や研究活動などで通常の就活活動ができない学生らにも門戸を開き、社会人向け中途採用も年2回に増やし、ウェブ面接も導入する。応募しやすくして民間企業や他の自治体との人材獲得競争に備える。
これまで自治体の新卒採用は春の一括採用が中心であり、同市のように大卒事務系を対象に通年採用を実施するのは全国でも珍しく、2022年4月入庁が第1号となる。法律知識など公務員試験で必要だった項目がなくなり、基礎能力を調べる適性検査などで選ぶ。申し込みは年間を通して受け付け、最終試験は年4回を想定する。採用時期は4月か10月となる。全国から応募しやすくするとともに、新型コロナウイルス感染症の影響も考慮し、2次試験ではウェブ面接を導入するなど工夫を凝らす。久元喜造市長は会見で、「留学や別の活動をしていた人の中には、優秀な人材が必ずいる。間口を広げ、多様な人材を獲得したい」とその主旨を語っている。



通年採用を先行導入する大手民間企業


通年採用は自治体より大手民間企業が先行している。就職みらい研究所の『就職白書2020』によると、2021年卒採用で4社に1社が通年採用を検討しており、就活活動の短期化や売り手市場の流れから新卒学生を採用することが難しくなっているため、通年採用を導入する企業も増えている。次に主な導入企業を紹介する。

◎ソフトバンク株式会社
同社が提唱するユニバーサル採用では、「自由な時期に学生の判断で活動をおこなえるように」と2016年4月から通年採用を導入。No.1採用や就労体験型のインターンシップなど、多様な選考プログラムを実施している。

◎株式会社ユニクロ
同社では、「一人ひとりが仕事について真剣に考え、主体的に行動し、納得した将来が送れるように」と2011年12月より年間を通じて新卒採用を行う。学生が不合格になっても再チャレンジできる制度などを設けている。

◎株式会社リクルートホールディングス
同社は2019年4月以降、国内9社の新卒採用を株式会社リクルートに統合。新卒採用方針は、「大学3年生3月~30歳以下まで応募可」、「既卒業者も就業経験者も応募可」、「365日、通年エントリー受付」と非常に幅広い人材を募集している。



ジョブ型とメンバーシップ型の特徴


新卒一括採用に代表されるような日本の雇用システムはメンバーシップ型と呼ばれているが、現在職務に応じて適切な人材を雇用するというジョブ型が大手民間企業を中心に広がりをみせている。
ジョブ型を経団連では、「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」と説明する。ジョブ型では職務・役割に対して人材を割り当てるため、あらかじめジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成してから募集を行う。ジョブ・ディスクリプションには職務内容や目標、権限をはじめ、職務に必要な知識・スキルなども記載するため、組織の中で「誰が何をするか」を明確にする必要がある。
また、メンバーシップ型は従来、日本の多くの企業で採用されてきた雇用方法である。労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏は、「職務、労働時間、勤務地が原則無限定。新卒一括採用で『入社』、社内に配転可能である限り解雇は正当とされにくい。一方、残業拒否、配転拒否は解雇の正当な理由。法の規定にかかわらず、労使慣行として発達したものが判例法理として確立した」と整理する。新入社員は勤務地や職務が入社後に決まることが多く、人事異動の辞令を出せば、基本的には辞令に従って転勤・部署異動する。一見、雇用する側に有利な制度に見えるが、勤務地や労働時間、職務が限定されないことは、能力などを理由に簡単に解雇することもできないことでもある。この雇用の前提には転勤・異動といったジョブローテーションによってキャリア形成を促し、組織の一員として原則定年まで働くという安定雇用の考え方がある。
ジョブ型とメンバーシップ型のメリット・デメリットについては、株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパルの林浩二氏によると、ジョブ型のメリットは専門分野に強い人材を獲得しやすい点を挙げる。一方で、転勤・異動をさせにくい点は、日本の雇用慣行から考えると大きなデメリットとする。仮に、本人に実力があったとしても、社内にポストがない限り昇進できず、同じ仕事をしている間は給与も上がらないため、「頭打ち感」が発生する可能性がある。
メンバーシップ型では長期的な視野で教育できる点が大きなメリットとされる。基本的にはスキルアップに伴って昇給するため、自己啓発への意欲を喚起し、ジョブローテーションを行いながら組織の幹部を目指して育成するため、昇進を重ねれば社員のモチベーションも上がりやすい。逆に、デメリットとしては専門職の人材が不足しやすい点が挙げられ、広範囲のスキルを持ち「なんでも屋」として活躍できるゼネラリスト志向の育成が行われるため、特定のスキルを持つ専門職の人材を育てにくく、長時間労働の傾向も強い。



20代はジョブ型の意向がやや高く


近年、ジョブ型に対する期待がある一方で、不安を持つ人も少なくない。マイナビ転職では20代~50代の正規雇用者700人を対象に、WEB調査で2021年9月24日~9月27日までに行った「ジョブ型雇用の意識調査」の結果を同年11月に発表している。ジョブ型とメンバーシップ型でどちらの雇用形態がいいかという質問に対して、ジョブ型を望む人は全体の24.6%。メンバーシップ型は32.1%の意向でジョブ型をやや上回る結果だった。年代別で見ると、20代はほかの年代よりもジョブ型の意向がやや高く、唯一3割を超えた。社会人としての経験が浅く、新しい雇用形態に対しての抵抗がほかの年代よりも少なかった。それに対して、30代~50代のメンバーシップ型意向者は、「安定した雇用形態」「終身雇用が魅力的」など将来の安心感を求める傾向が見られた。また、20代のメンバーシップ型意向者では、自分の向き不向きが判断しきれないまま、ジョブが固定されることに不安を覚える人も少なくなかった。



ハイブリッド型雇用の模索


少子高齢化やグローバル化する世界にあって、近年、日本国内ではジョブ型雇用への注目が高まっており、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響はそれをさらに加速させようとしている。
戦後直後の雇用システムはジョブ型に近いものであったともいわれ、これまでの終身雇用、年功別賃金、企業別組合といった三種の神器に支えられたメンバーシップ型雇用は高度経済成長期に確立し、今日まで続いて来たとされる。そうした中で、ジョブ型かメンバーシップ型かという二者択一ではなく、両者の長所を兼ね備えたハイブリッド型による企業独自の雇用システムが模索され始めている。




【参考文献】

  • 一般社団法人日本経済団体連合会「定例記者会見における十倉会長発言要旨」
  • NEOCAREER「【新卒採用】5分でわかる通年採用|ポイントや導入企業を紹介!」
  • 日本の人事部「ジョブ型雇用」
  • indeed「日本でも浸透する? 大手企業で導入が進む「ジョブ型雇用」の仕組みとメリット・デメリット」
  • マイナビ転職「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用どちらを望む? それぞれの制度のメリット・デメリット」
  • 日本経済新聞2020年10月22日付「神戸市が大卒の通年募集枠 ウェブ面接も導入」

 

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