2022/08/30再開発レポート
東京都内では大規模な再開発事業が続いている。今回は、世界貿易センタービルディングや増上寺、東京タワーなどがあることでも広く知られ、東京国際空港(羽田空港)に向かうモノレール線への乗り換え拠点にもなっている港区の浜松町駅を中心にしたエリアを紹介する。最近、大規模なオフィスビルの建て替え工事が始まり注目されている。
もともとは小さな漁村であった浜松町が街として形成されていったのは、1598年に徳川家の菩提寺である増上寺が千代田区麹町から浜松町に移転してきたことから始まる。
かつての浜松町は、1603年頃に増上寺代官の奥佐久方衛門が名主を兼ねていたため、久右衛門町と呼ばれていた。この頃から海岸が埋め立てられ、主に増上寺の関係者が移り住むようになり、次第に街が形成されていった。1696年に遠州(静岡西部)・浜松出身の権兵衛なる人物が名主となってから、浜松町という名称が生まれ、今日まで続いている。
明治時代には、いわゆる文明開化の発祥の地として知られ、ガス燈のガスの供給、電話やラジオもこの辺りから始まった。1923年の関東大震災後は東京湾築港の拠点となり、終戦後も一面焼け野原と化した浜松町駅周辺にただひとつ残されていた都電車庫が、復興に伴って賑わいを見せていた。とはいえ、浜松町周辺は、概して小規模な事業者や生産材料商店が多く軒を連ねる程度であった。
しかし、高度経済成長期に入ると貿易量が急激に増大し、国際交流・ビジネス活動が活発化する。このような時代の潮流を背景として、都心における交通の要衝地に国際貿易に関する総合センター建設の必要性が叫ばれ、その建設用地として浜松町駅前の都電車庫跡に白羽の矢が立った。こうした中で、高度経済成長期のシンボルともいえる世界貿易センタービルディングが、1970年3月に竣工する。同ビルは千代田区霞が関の霞が関ビルに次ぐ国内2番目の超高層ビルであり、約152メートルの高さは当時東洋一を誇った。それ以降も、駅を中心に東京の陸・海・空の主要拠点として成熟したビジネスエリアへと発展を遂げていく。
JR浜松町駅は山手線・京浜東北線、東京モノレール、都営地下鉄浅草線・大江戸線が乗り入れる駅が整備されており、東京の玄関口である東京駅や空の玄関口である羽田空港へもスムーズにアクセスできる交通の要衝となっている。また、駅東口には国指定名勝の旧芝離宮恩賜庭園が隣接する。さらに、近くの竹芝桟橋や日の出桟橋からは晴海・お台場海浜公園を結ぶお台場ラインや、浅草を結ぶ隅田川ラインなどの水上バスが運航されており観光名所にもなっている。
株式会社世界貿易センタービルディング、鹿島建設株式会社、東京モノレール株式会社、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は2021年7月に、浜松町駅西口において開発を進めている都市再生特別地区(浜松町二丁目4地区)A街区における都市計画の変更手続きを開始している。
当初の都市計画提案における整備に加え、観光拠点・都心型MICE(国際的なビジネスイベント)拠点の形成、防災性向上と環境負荷低減への一層の取り組みといった新たな整備を行ない、浜松町の陸・海・空の交通結節点としての拠点づくりを推進する。
浜松町駅に隣接するA街区は、A-1棟(世界貿易センタービルディング本館)、A-2棟(ターミナル棟)、A-3棟(世界貿易センタービルディング南館)、モノレール棟に分かれている。A-3棟の南館は2021年3月に既に竣工しているが、その後の社会的背景の変化・周辺環境の変化に対応するため、都市計画の変更手続きが行われた。現在、A街区の大門側に隣接するB街区では2018年8月に日本生命浜松町クレアタワーが竣工している。
A街区の従前都市計画の整備内容は、交通結節機能の強化、国際交流拠点の形成、交通結節点における防災機能の強化と環境負荷低減の3つである。交通結節機能については、JR駅・モノレール駅改良と併せた歩行者広場・北口東西自由通路・歩行者デッキネットワークの整備及びJR駅・モノレール駅・地下鉄駅・バスターミナル・タクシープールといった主要交通をスムーズに接続するステーションコアの整備を進める。また、国際コンベンションホール・MICEセンターの整備や外国人滞在者支援機能の整備、高効率な自立・分散型エネルギーの導入、帰宅困難者受け入れスペース・災害支援機能の確保を行なう計画である。
新たな整備内容には、緑の連続性の強化、観光プレ体験機能の整備、国際水準の宿泊施設・DMO(観光地域づくり法人)活動拠点の整備の3つが加わった。緑化計画については、旧芝離宮恩賜庭園や隣接街区・大門通り等、周辺環境との緑の連続性を強化す
る。観光プレ体験機能については、訪日外国人旅行者に対して、東京、港区、浜松町駅周辺エリアのほか、日本各地の新たな魅力や楽しみ方を多言語でのデジタル・リアル体験を通じて情報発信する観光プレ体験施設を整備し、各観光地への訪問意欲の向上や日本への再訪意欲の喚起を図る。宿泊施設については、浜松町駅周辺エリアのMICE開催地・観光地としての魅力向上、地域ブランド醸成に向け、レジャー・ビジネス両面の訪日外国人の短期滞在ニーズに対応した世界的知名度を有する国際水準の宿泊施設を整備する。また、MICE主催者の視察受け入れやエリアの魅力のプレゼンテーション、事務所機能などに活用するDMOの活動拠点を整備する。
変更対象となるA街区の敷地面積は約2万1,000平方メートル、延べ面積は約31万4,000平方メートル(容積対象延べ面積は約25万6,000平方メートル)。最高高さは地上46階、約235メートル。A-1棟とA-2棟の竣工は2027年2月予定、モノレール棟は2029年12月予定。
浜松町駅から見て世界貿易センタービルディングの裏側に位置するC地区の場所では、地上46階建て高層ビルの新築工事が着工しており、2024年11月の高層部竣工、2026年12月の全体竣工を予定している。
同地区は世界貿易センタービルディング、鹿島建設、三井不動産レジデンシャル株式会社、三菱地所レジデンス株式会社が再開発組合に参画する開発事業で、事業名称は浜松町二丁目地区第一種市街地再開発事業である。世界貿易センタービルの建て替えを始めとする隣接街区とともに、浜松町駅西口地区地区計画の指定を受けて開発が進行する。共同住宅、事務所、商業施設、港区文化芸術ホール等を整備する。都市に潤いと賑わいをもたらす多様な機能の導入と、駅と周辺市街地をつなぐ結節点となる安全で快適な街づくりを目指している。
2024年11月に共同住宅、事務所等竣工、2026年12月に港区文化芸術ホール、商業施設等竣工の計画。敷地面積は5,900平方メートル、施設規模は約7万4,900平方メートル、地上46階・地下2階、最高さ約185メートル。
野村不動産グループの野村不動産株式会社とJR東日本は、共同で推進している国家戦略特別区域計画の特定事業である芝浦1丁目プロジェクトの事業者として、2021年10月から着工に入っている。
同プロジェクトは東京都港区にある浜松町ビルディング(旧・東芝ビルディング)の建て替え事業として、今回着工したS棟と2027年度に着工予定のN棟の2つから成る。S棟とN棟の高さは共に約235メートルで、完成すれば大規模なツインタワーが誕生する。竣工はS棟が2024年度、全体は2030年度を予定している。
区域面積は約4万7,000平方メートル、全体の延べ面積は約55万平方メートル。ツインタワーにはオフィスやホテル、商業施設、共同住宅、駐車場などが入り、完成まで約10年に及ぶ大規模複合開発になる。先に完成するS棟は地下3階、地上43階建て。2027年度に着工予定のN棟は地下3階、地上45階建て。S棟の建設は清水建設株式会社などが手掛けているが、N棟は未定である。
また、同プロジェクトは気候変動に対する緩和策として、街区全体でCO2排出量の実質ゼロを目標に掲げているのも大きな特徴である。最新の省エネルギー・省CO2技術や、自社施設での創電による再生可能エネルギー、カーボンニュートラル都市ガスの導入などが検討されている。
水害などにも耐えられる性能を備え、都市機能の維持に貢献する。敷地内に防潮板を設置するだけでなく、浸水に備えて重要電気諸施設は地上2階以上に配置され、地下の重要施設には水密扉を設置する。内水氾濫対策として、雨水対応の緊急遮断弁を設ける計画である。
野村不動産とJR東日本は2022年4月、共同で開発中の芝浦一丁目プロジェクトにおいて、一般社団法人芝浦エリアマネジメントを設立した。
同法人では、2021年3月に同プロジェクトの敷地を含めた周辺地区において、地元町会、地域関係者や行政とともに設立した芝浦一丁目地区街づくり協議会(回遊性向上と周辺地区との連携、地域資源の魅力向上、地域コミュニティの活性化、防災性向上等に資する活動を推進)との連携のもと、水辺空間や運河の地域資源の利活用、将来的に整備される屋外空間を活用した地域コミュニティの活性化に向けた広告及びイベント・PR、防災及防犯活動の向上に寄与する事業活動を展開する。今後、一人ひとりが居心地よく過ごせる東京湾岸部の新たなシンボルとなる街づくりに取り組んでいく計画である。
浜松町ビルディング建て替え工事が行われている芝浦一丁目地区から、芝浦運河にかかる橋を渡って首都高速道路の高架下をくぐれば、日の出ふ頭と東京湾が目の前に広がる。最寄りには東京臨海新交通臨海線(ゆりかめ)の日の出駅があり、駅から歩いてすぐそばには、東京湾や墨田川のクルージングが楽しめる水上バス乗り場がある。また、同乗り場から竹芝地区側に向かう場所には、東京都港湾局と野村不動産が連携して、2019年7月に日の出ふ頭小型船ターミナル「Hi-NODE」を開業している。
東京モノレール株式会社は、浜松町駅西口で進行する開発事業に伴い、モノレール浜松町駅ビルの建て替え工事に2021年10月から着手している。竣工は2029年12月予定。
建て替えでは、1964年の開業から57年が経過した駅ビルを更新し、防災機能の強化を図る。また、駅ビル3階中央部は駅西口開発ビルと駅を直結する歩行者広場を整備される。3階デッキレベルのJR、モノレール、1階レベルのバス、タクシー、地下鉄は、開発ビル内に設けられるエスカレーター・階段による縦動線と接続する。さらに、周辺の自由通路事業整備等と併せて、竹芝地区や芝浦一丁目地区等との歩行者ネットワークを形成する。
浜松町駅と海側にあるゆりかもめ竹芝駅・竹芝ふ頭公園を結ぶ全長約500メートルの架け橋、バリアフリー歩行者デッキの建設が進んでいる。竣工は2028年10月予定。
2022年4月時点では、すでに駅の海側には地上3階建ての歩行者デッキ連絡コンコース(東側橋台)が出現しており、海側へと伸びる竹芝デッキは3階部分で連絡する。同年5月には駅ホーム拡幅工事が行われ、既存駅舎の北側に橋上駅舎を新設する計画である。また、新しく誕生する橋上駅舎と東側橋台を結ぶ北口東西自由通路も新設される。この通路は東海道線・東海道新幹線などの上空を2階部分で結ぶことになる。
竹芝デッキの設置には、増上寺や東京タワーがある駅西側の賑わいを、国指定の名勝庭園や客船ターミナルがある海側のエリアにまでつなげていくという目的がある。駅や歩行者デッキの完成後には、観光客やビジネスマンで大いに賑わう新たな時代の浜松町を予感せずにはいられない。
【オフィスエリア:池袋】動き出す池袋駅周辺再開発 東西に人中心の駅前広場空間を整備
再開発レポート
2022/08/29
【オフィスエリア:虎ノ門】虎ノ門大変貌 駅と一体化する虎ノ門ヒルズエリア 国際新都心・グローバルビジネスセンターへ拍車
再開発レポート
2022/08/26
【オフィスエリア:日比谷】新時代の日比谷エリア 駅と公園が一体化した内幸町再開発
再開発レポート
2021/10/01
【オフィスエリア:品川・五反田】五反田駅周辺の再開発 生まれ変わるスタートアップの聖地
再開発レポート
2021/09/01
電話受付時間 9:00~18:00(土日・祝日除く)
オフィス環境構築のリーディングカンパニーとして企業改革を多角的にサポートし、
あらゆるオフィスニーズにお応えられるサービス提供を目指します。